上に立つ人
- Macoron
- 5月8日
- 読了時間: 4分
若い頃の話ですが・・・
私が所属していた部署は、スタッフが数人しかおらず、それほど大きくない部屋に人数分のデスクと来客用の大きなソファーがあり、隣に会議室が付いていていました。
時折、内部のそれぞれの業種のトップの方々が、「コーヒー飲みに来た」と、ふら~っと来られていました。沢山の外部のお客様が来られる部署だったので、大きなコーヒーメーカーがあったのですが、私は、できる限り淹れたてのコーヒーをお出ししていました。内部のトップの方々は、とても私のような者が気軽にお話しできるような方々ではないので、日常なかなか気が抜けないだろうなと思い、ここに来られる時くらいはリラックスしていただけるようにと心がけていました。
だいたいみなさま、制服の上着を脱がれ、ソファーに深く腰掛けると、大きくフーッと息を吐かれておられました。
「おまたせしました。」
と、コーヒーをお出しすると、
「ありがとう。」
と、言って、穏やかな時間を過ごされます。
様子を見ながら、話しかけられたらもちろん楽しくお話しますが、お顔を見てお疲れだなあという時は、そっとしておきます。お仕事中の表情とは違い、部屋にいらっしゃる間は、とても優しく温かいお人柄が伝わってくるようなそんな方々でした。
やがて15分ほどするとすっと立ち上がり、制服を着られると
「いつも、ありがとう。ごちそうさま。」
と笑顔でおっしゃられ、出入り口の扉付近になると、キリッとしたお仕事のお顔に変わり、出ていかれるのでした。
そんな方々の中で特に印章に残っている出来事がありまして・・・
その方は、お越しいただいていた方々の中でもさらに偉い方で、なかなかお目にかかれないないような方でした。
ある日、部屋の茶器室で片付けをしていると、突然現れ、
「おい!誰か来たらいないって言ってくれ!」
と言って、隣部屋の会議室に隠れておられるのです。
「え!・・・」
すぐに追っ手?が来て、慌てた様子で、
「おいおい!〇〇さん来られなかったか?」
「いや、来られてないですよ。」
「もし来られたら、すぐ連絡してくれ!」
「承知しました。・・・」
偉い方は、会議室の扉に隠れてニヤニヤ・・・
「助かった。」
いやいや・・どうゆうことよ。笑
「どうされたのですか?」
「知っているか?敷地内の池にカルガモの親子が来たらしいぞ。俺は、今から見に行く。」
「え・・・あ・・・。」
「そんなこと言ったら怒られるから、俺は自分で警備に自転車を手配した。もう横に停めてある。だから、ここから見つからないように、建物の横に出て行ってくる。」
「あ・・・。あの・・。」
この人とても偉い人・・・。だけど私に説明する顔がめちゃくちゃワクワクしている。笑
廊下からバタバタと走り回る音が聞こえる。この方のお付きの方々が探しておられる。笑
少しして、足音がなくなったと思ったら、
「行ってくる!」
と言って、そそくさと部屋を出て行かれる。まるで逃走犯。笑
廊下に出られると、みんながびっくり。完全に気をつけ状態。
その中をスタコラと通り抜け、とうとう自転車に乗ってカルガモの元へと行ってしまわれたのでした。
その後、私は別の建物に用事があり外を移動していると、建物と建物の間を誰かが・・・
何と、颯爽と自転車を漕いで行くあの偉い方の後ろを、黒塗りの車が追いかけているという事態・・・思わず吹き出してしまいました。
まるでお城から城下町へ向かうお殿様のような・・・笑
当の御本人はというと、カルガモを見にいった後、みんなから怒られちゃったと言いつつ、カルガモがこんなで、あんなで、可愛かったぞとそれはそれは嬉しそうに報告しに来てくださったのでした。
あの歳になられ、あの立場になられても偉ぶるようなことは全くなく、いつまでも無邪気なお心をお持ちで、周りの方々からとても愛されておられましたから、今も忘れられない出来事として私の心に残っているのでした。
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